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大阪地方裁判所 昭和52年(わ)959号 判決

本店所在地

大阪府松原市大堀町一〇一番地一

松本ナット工業株式会社

(右代表者代表取締役 松本靜夫)

本籍

同市天美北八丁目七一一番地

住所

同市天美北七丁目五番二七号

会社役員

松本靜夫

昭和八年一月二九日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤村輝子、鞍本健伸出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告人松本ナット工業株式会社を罰金五、五〇〇万円に、被告人松本靜夫を懲役二年に、各処する。

一  被告人松本靜夫に対し、この裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。

一  訴訟費用は、全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人松本ナット工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、大阪府松原市大堀町一〇一番地一に本店を置き、各種精密器ナットの製造等を目的とする資本金三、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人松本靜夫は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人松本靜夫は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げ及び棚卸の一部を除外し、仮名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和四八年六月一日から同四九年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億一八〇〇万三四九二円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同四九年四月一日、大阪府八尾市本町二丁目二番三号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五二〇二万八八七七円でこれに対する法人税額が五三五一万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億八八〇〇万五〇〇〇円と右申告税額との差額一億三四四八万九二〇〇円を免れ、

第二  昭和四九年二月一日から同五〇年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億四〇一九万三九六〇円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五〇年三月三一日、前記税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億五四〇万五六七二円でこれに対する法人税額が一億一五三〇万八二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億六九二一万四三〇〇円と右申告税額との差額五三九〇万六〇〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人松本靜夫の当公判廷における供述

一  第二六回ないし第三一回公判調書中の同被告人の供述記載部分

一  同被告人の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の同被告人に対する質問てん末書七通

一  証人米田福雄、同津野田親秀、同樋口幸男の当公判廷における各供述

一  公判調書中の証人酒井秀俊(第四回ないし第一一回)、同渡辺悦子(第一二回)、同宮崎嘉夫(第一三回)、同松本五男(第一四、一五回)、同津野田親秀(第一六回ないし第一八回)、同岡本孝一(第一九回)、同金澁輝夫(第一九、二〇回)、同園田耕司(第二〇回)、同樋口幸男(第二二、二三、二五、二六回)、同米田福雄(第三三回)の各供述記載部分

一  岡本孝一の検察官に対する供述調書

一  収税官吏の竹田定男に対する質問てん末書

一  津野田親秀、樋口幸男、細川満佐秩、竹内政介、藤生康典、藤田好潔、西川伝、徳永武紀、中平航平、伏見正夫、西尾昌信、板禽稔治、岡田貞夫(三通)、今崎功、辰巳信行、星政敏、出口信也各作成の「確認書」と題する書面

一  株式会社富士銀行阿倍野橋支店、入江茂夫、株式会社三和銀行大阪駅前支店各作成の照会回答書

一  検察官作成の電話聴取書

一  収税官吏作成の査察官調査書類二通

一  収税官吏作成のたな卸商品等在庫高確認書

一  大阪法務局堺支局登記官作成の昭和五七年一一月二二日付け法人登記簿謄本

一  収税官吏作成の脱税額計算書二通

一  被告会社作成の昭和四九年四月一日付け、同五〇年三月三一日付け法人税確定申告書謄本

一  押収してある49/1期総勘定元帳一綴(昭和五二年押第一一六九号の1)、50/1期総勘定元帳一綴(同押号の2)、振替伝票八綴(同押号の3)、昭和四九年度日計表一綴(同押号の4)、48/5期仕入帳二綴(同押号の5)、49/1期仕入帳一綴(同押号の6)、決算関係書類一綴(同押号の7)、48/5期決算関係書類一綴(同押号の8)、50/1期仕入帳一綴(同押号の9)、三菱商事(株)領収書請求書綴一綴(同押号の10)、売上伝票一綴(同押号の11)、50/1期決算関係書類一綴(同押号の12)、48・11~50・9納品書(飯南工場)一綴(同押号の13)、50・8・28~51・1・28納品書一綴(同押号の14)、三菱工場タップ使用調査表綴一綴(同押号の15)、飯南工場タップ使用在庫表一綴(同押号の16)、国内在庫表(年度不詳)一綴(同押号の17)、タップ出入帳二綴(昭和五四年押第一一〇八号の一、二)、49・1・31棚卸写一枚(同押号の三)、製品搬出搬入控一二冊(同押号の四)、49/1期売上帳2冊(同押号の五)、50/1期売上帳2冊(同押号の六)、作業報告書8綴(同押号の七)、タイムカード一未、一箱(同押号の九、一一)、昭和五〇年源泉徴収簿兼資金台帳一綴(同押号の一〇)、従業員名簿一綴(同押号の一二)

(弁護人らの主張に対する判断)

弁護人、被告人らの争う勘定科目についての当裁判所の判断の要旨は、以下のとおりである。

なお、証拠に関し、次の略語を用いることがある。

1  証拠の引用にあたり、単に証拠等関係カード(検察官請求分)番号のみで表示する場合がある。

2  公判調書の供述記載部分が証拠となるものについても、単に「供述」又は「証言」と記述することがある。

3  被告人松本靜夫を単に「被告人」と表示する場合がある。

一  一期期首棚卸高について

検察官は、被告会社の昭和四八年六月一日から同四九年一月三一日までの事業年度(以下、一期という。)の期首における貯蔵品(タップ)棚卸高については、簿外に二四八万七六三〇円が存すると主張し、弁護人らは、棚卸除外は存しないと主張する。

この点に関する主たる証拠としては、公判調書(第一四、一五回)中の証人松本五男の供述記載部分、押収してあるタップ出入帳二綴(昭和五四年押第一一〇八号の一、二)、48/5期決算関係書類一綴(昭和五二年押第一一六九号の8)が存するが、前記タップ出入帳二綴を作成した証人松本五男の供述は、以下に述べる点から措信し難い。

すなわち、同人の供述によれば、右タップ出入帳は、使用可能なタップ数の把握のための心憶えとして作成したものとのことであるが、同出入帳を検討すると、各期の期末の数量が記帳してある例が多く、備考欄に棚卸と表示してある。このように出入帳の記載内容に鑑みると、同証人の供述は不合理であって、同出入帳の記載内容と符合しないことは明らかである。更に収税官吏の松本五男に対する質問てん末書と対比すると、その供述は矛盾し、同人の被告会社内における地位等をも併せ考慮すると、同証人の供述は、到底措信できない。

従って、同証人の供述を根拠とする弁護人らの弁解は採用しない。

前記出入帳二綴及び48/5期決算関係書類一綴によれば、同出入帳に記載のタップ数量が現実の在庫量と認められるので、別紙(四)一期期首タップ棚卸除外額のとおり、簿外の貯蔵品棚卸高は、二五〇万九〇一四円となるが、検察官主張額が二四八万七六三〇円である点を考慮して、二四八万七六三〇円の限度で一期期首貯蔵品棚卸除外額として認定する。

二  一期期末棚卸高について

一期期末棚卸高について、検察官は、原材料棚卸高、貯蔵品在高、製品棚卸高、貯蔵品棚卸高に総額一億三五四二万一〇〇〇円の棚卸除外があると主張するのに対し、弁護人らは棚卸除外は一切存しないと主張する。

弁護人は、棚卸除外の存しない根拠として、第二二回公判調書中の証人樋口幸男の供述記載部分添付の同人作成の調査報告書により認められる製品在庫高四三五七万三九一円が押収してある決算関係書類一綴(昭和五二年押第一一六九号の7)中の棚卸合計表の製品三三七一万二五九四円に近いことをあげる。同証人の供述によれば、右報告書は、前記決算関係書類一綴中の各月別製品製造量と題する書面をもととしているが、以下に述べる如く、右月別製品製造量と題する書面は、製品製造の実態を正確に示しているものとはいえず、全く信用性を欠くものである。すなわち、昭和四八年六月分についてみるに、右月別製品製造量と題する書面上は1/2ASAJAM及びISO10Mは一切製造されていない筈なのに、公判調書(第二二、二五回)中の証人樋口幸男の供述記載部分及び押収してある作業報告書八綴(昭和五四年押第一一〇八号の七)によれば、右作業報告書は、製品製造担当者が各機械毎に毎日の製品製造高を各製品名別に記入したもので、毎日の製品製造量を正確に記載したものであること、右作業報告書によれば、明らかに本社工場で1/2ASAJAM及びISO10Mが昭和四八年六月に製造されていることが認められる。このように月別製品製造量と題する書面に信用性が認められないので、これを前提とする樋口作成の調査報告書を棚卸除外の存しなかったことの根拠とすることは許されない。

従って、公表帳簿上の棚卸が正確であることを前提とする証人樋口幸男の供述及び同人作成の調査報告書は、いずれも信用性を欠くものであって、これと同旨の棚卸除外に関する被告人の供述及び証人津野田の供述はいずれも措信し難い。

弁護人は、棚卸集計用紙を現場へ二度送ったことはないと主張し、証人渡辺悦子、同津野田親秀、同松本五男、同金澤輝夫の各供述を援用する。しかし、証人松本五男の供述は、前記一のとおり信用性に欠ける。証人津野田親秀、同金澤輝夫のこの点に関する各供述も、収税官吏の右両名に対する質問てん末書三通及び同人らの被告会社における地位等に鑑みると俄かに措信し難い、そこで証人渡辺悦子の供述の信用性が問題となる。なるほど、同証人は、集計用紙を現場に二度送ったことはないと明確に供述しているが、他方押収してある決算関係書類一綴(昭和五二年押第一一六九号の7)中の棚卸合計表(S49・1・31)及び49・1・31棚卸写一枚(昭和五四年押第一一〇八号の三)については、いずれも自己の筆跡の存することを認めており、結局内容の異なる二通の棚卸合計表の作成に関与していることを認めており、ただその作成の経緯については記憶がないと供述しているにすぎない。従って、同証人の集計用紙を二度送ったことはない旨の供述の信用性についても、かなり疑問が存するといわざるを得ない。

これに対し、前記作業報告書及び後記三(1)(二)のとおり信用性の高いものと認められる押収してある製品搬出搬入控一二冊(昭和五四年押第一一〇八号の四)の記載内容に符合する証人酒井秀俊の供述、被告人の検察官に対する供述調書及び前記49・1・31棚卸写一枚(同押号の三)の証明力は極めて高いものと解される。

右各証拠によると、一期期末の棚卸額は、右49・1・31棚卸写に記載のとおりであり、除外額を被告人が指示したうえで、被告人がペンで右写に数字を記載したものと認められる。

以上の点から、検察官主張のとおり、決算関係書類一綴(昭和五二年押第一一六九号の7)中の棚卸合計表との差額一億三五四二万円一〇〇〇円の簿外棚卸除外額が認められ、右認定に反する弁護人らの主張は採用しない。

三  二期期末棚卸高について

検察官は、被告会社の昭和四九年二月一日から同五〇年一月三一日までの事業年度(以下二期という。)における期末棚卸について、簿外に製品、原材料、貯蔵品(タップ)の棚卸除外が存すると主張し、弁護人らは棚卸除外は一切存しないと主張するので、以下品目毎に検討を加える。

1  製品について

(一)  本社分

検察官は、押収してある国内在庫表一綴(昭和五二年押第一一六九号の17)と50/1期決算関係書類一綴(同押号の12)とを対比したうえで、両者の差額を棚卸除外と主張するのに対し、弁護人は、右国内在庫表一綴の記載内容は信用性が乏しく、結局棚卸除外はない旨主張する。

そこで、右国内在庫表の記載内容の信用性の有無が問題となるが、これを決するには、作成者である岡本孝一の供述の信用性の判断が極め手となる。

第一九回公判調書中の証人岡本孝一の供述記載部分によれば、右在庫表は、岡本の個人的メモであり、国内販売用の在庫を記載し、見て違っていると思うと自分なりに訂正し、棚卸調整等と記載したものである旨供述するが、右国内在庫表一綴中の棚卸調整と記載されている年月日等に鑑みると、岡本の供述自体かなりの不自然さを有しているものと考えられる。しかも、同人の検察官に対する供述調書に比較すると、公判廷での供述は、被告会社に有利な内容となっており、証言当時も同人が被告会社に勤務していること及び供述の変遷の合理的説明がなされていないことを考慮すると、同人の公判廷での供述の信用性は低く、これに反し、同人の検察官に対する供述調書の信用性は高いものと解される。同人の検察官に対する供述調書によると、右国内在庫表一綴は、昭和四九年六月から同五〇年一二月までの本社における主要な製品の出入りと国内販売用製品の在庫を正確に記帳したものであり、時々点検してもれがあれば調整とか棚卸調整と記載して食違い分を訂正しており、殊に昭和五〇年一月三一日は実地棚卸をしたので、同表の記載内容は正確であることが各々認められる。

右国内在庫表一綴と50/1期決算関係書類一綴中の棚卸表(本社製品分)とを対比し、棚卸除外を検討すると、別紙(五)二期期末製品棚卸除外額(本社分)のとおりとなる。なお、弁護人指摘のとおり、国内在庫表一綴の品名は前記棚卸表記載の品名に比して簡略であり、例えば棚卸表中の磨1/2は、国内在庫表中の1/2に含まれるのか、あるいは、製品の出入りが少いため国内在庫表には記帳されなかったものかは明らかではないが、被告人に有利に解し、前者にあたるものとして計算する。

結局、五三一万四一五四円を本社製品棚卸除外額と認定する。

(二)  三重工場分

三重工場の製品棚卸高について、検察官は、査察着手当日(昭和五〇年一二月一一日)の在庫確認数量と押収してある納品書二綴(昭和五二年押第一一六九号の13、14)から確定される昭和五〇年二月一日から同年一二月一〇日までの出荷数量を加算し、これから押収してある製品搬出搬入控一二冊(昭和五四年押第一一〇八号の四)から確定される昭和五〇年二月一日から同年一二月一〇日までの製品製造数量を差引いて二期期末の製品在庫量を算出し、これに前記50/1期決算関係書類中の各製品毎の原価を乗じると、四七一四万四二五一円の製品棚卸除外額が推計されると主張する。

これに対し、弁護人は、検察官が製造数量確定の基礎とした製品搬出搬入控は例えば二月二六日、五月二七日~三〇日、一〇月一日~九日、一二月一日~一〇日までの間は、製品は製造されていた筈であるのに右控に記帳されていないこと等を理由に、右控は、製造数量を正確に記載したものではなく、信用性に欠けること並びに検察官は幾種類かの原価の異なる製品を混同し、これに一律の単価を乗じていることを根拠として、検察官主張のような推計は許されないと主張する。

そこで、まず製品搬出搬入控の記載内容の信用性が問題となるので検討を加える。

収税官吏の竹田定男に対する質問てん末書によれば、右控は、右竹田が昭和四八年三月三〇日から同五〇年九月三〇日までの間の被告会社の三重工場における半製品についての倉庫への搬入分、タッピング部への搬出分並びに製品についてのタッピング部から倉庫への搬入分を品月別に記帳したものであること、製品については、倉庫の所定位置に置いた時点で記入事項を横線で消し、半製品についてはタッピング部へ搬出した分を横線で消していること、本社からの送付分も記帳しているため、三重工場製造分よりは多目に記帳されていること、三重工場における製品、半製品の運搬は、竹田一人で殆んど行なっていたことが各々認められる。従って、工場から直接出荷された製品については、記帳されないこととなるが、右控には、期末製品棚卸高計算のためには当然除外すべき半製品分、本社からの送付分も記帳されていることを考慮すると、直接出荷分を差引いても、なお被告人に有利な計算となるものであって、右控は、期末製品棚卸高計算のための基礎資料として十分使用に耐えうるものと考えられる。

右製品搬出搬入控一二冊、収税官吏の竹田定男に対する質問てん末書、押収してあるタイムカード一束、一箱(昭和五四年押第一一〇八号の九、一一)、昭和五〇年源泉徴収簿兼賃金台帳一綴(同押号の一〇)、従業員名簿一綴(同押号の一二)、第二三回公判調書中の証人樋口幸男の供述記載部分添付のサイズ呼称一覧表によれば、昭和五〇年二月一日から同年一二月一〇日までの三重工場における製品製造高が計算されるが、同工場が操業していた同年二月二六日、五月二八日、二九日、三〇日、七月四日、九日、一一日、八月一日、一〇月一日、二日、三日、六日、七日、八日、九日(合計一五日)の製造分については、右控の作成者である竹田定男の欠勤その他の理由により同控に記帳されていないこと、同年一〇月一〇日以降、同工場は休業していたことが認められる。同年一二月については、前記タイムカード一束(前同押号の九)によると、津野田親秀、津野田芳彦、松本和之、村田勝彦の四名が一二月一日から五日まで、八日から一一日まで各出勤していた旨の記載が存するが、同タイムカードにタイムスタンプの押されているのは、津野田親秀、松本、村田の八月一日から一一日まで、津野田芳彦の一〇日、一一日のみであり、他の日については〈出〉〈休〉のスタンプが押されているだけで他の月のタイムカード(前同押号の一一)とその体裁が大きく異なるのみならず、工場休業中の一二月後半についてもタイムカードによると右四名以外に八名の者が出勤していることとなり、その記載内容に多大の疑問の存するところであるが、その点を別としても、津野田ら三名の八日、九日、四名の一〇日、一一日の出勤日についても、第一八回公判調書中の証人津野田親秀の一二月中は工場閉鎖していた旨の供述記載部分に鑑みると、右タイムカードにより同日に製造が行われていたものと認めることはできず、結局、昭和五〇年一二月は三重工場は閉鎖されており、製造はなされていなかったものと認める。

次に、検察官主張の計算方法は、なるほど弁護人主張のように幾種類かの単価の異なる製品を一括して計算しているが、前記50/1期決算関係書類及びサイズ呼称一覧表によれば、棚卸除外の存する製品については最も低い単価を基準とし、過大計上の製品については、最も高い単価を基準としているものであり、結局、検察官主張の計算方法によれば、被告人に最も有利な金額が算出され、弁護人のこの点に関する主張も採用の限りでない。

以上の点から考えるに検察官主張の推計方法は、被告人に最も有利な方法で、かつ合理的なものであり、当裁判所も相当と解する。

従って、製品搬出搬入控により、昭和五〇年二月一日から同年一二月一〇日までの三重工場における製品製造高(前記記帳もれ分(一五日間)を除く一四三日間)が別紙(六)三重工場月別製造高のとおり二億九四八八万五三〇七円と確定できる。

次に、記帳もれ分についてであるが、前記の一五日分については、他に何らの証拠も存しないので、推計せざるをえない。前記製品搬出搬入控により算定された製造量をもとに各製品毎の単価を乗じて算出した製品製造高(二億九四八八万五三〇七円)を製造日数一四三日を除して得られた一日当りの平均製造高二〇六万二一三五円を基準として推計するのが最も妥当、適切な計算方法であると解する。これによると記帳もれ分は、総額で三〇九三万二〇二五円となる。

収税官吏作成のたな卸商品等在庫確認書により認められる査察着手日の確認数量、前記納品書二綴より認められる出荷数量(内訳は、昭和五七年一一月三〇日付け検察官作成の釈明書添付のNo.11の5/8の四六〇八〇を四六三〇〇と訂正するほかは同添付の表のとおり。)、50/1期決算関係書類一綴により認められる公表分及び前記の製造数量から認められる棚卸除外額は、別紙(七)二期期末製品棚卸除外額(三重工場分)のとおりであり、結局、二期期末の三重工場における製品棚卸除外額は、一九一三万七二〇五円と認定する。

(三)  以上から、二期期末の製品棚卸額は、合計二四四五万一三五九円となる。

2  原材料について

弁護人は、三重工場に保管していた電気銅二〇〇トン(七八〇〇万円)の棚卸除外について故意がない旨主張する。

公判調書中の証人酒井(第六回)、被告人松本靜夫(第二九回、三〇回)の各供述記載部分、同被告人の検察官に対する供述調書、収税官吏の同被告人に対する昭和五〇年一二月一一日付け(第一回)質問てん末書、押収してある50/1期仕入帳一綴(昭和五二年押第一一六九号の9)、三菱商事(株)領収書、請求書綴一綴(同押号の10)、前記50/1期決算関係書類一綴によると、被告人松本の指示により二期において先行きの値上りを期待して電気銅を購入し、二〇〇トンを三重工場に保管したこと、帳簿上は、六角コイルの仕入れと仮装し、決算では本社保管分のみを計上したことが認められる。

被告人松本は、当公判廷では、決算書類を見たが、銅の明細についてまでは、注意しなかった旨述べているが、捜査段階ではそのような弁解をしていず、前掲各証拠に照らしこの点に関する被告人松本の弁解は措信し難い。前掲各証拠により、被告人松本に電気銅を棚卸除外することについての認識はあったものと認める。

3  期末貯蔵品(タップ)棚卸高について

(一)  本社分

検察官は、前記松本五男作成のタップ出入帳と50/1期決算関係書類中のタップ棚卸表との差額六二〇万五九〇一円を棚卸除外と主張するのに対し、弁護人は、右タップ出入帳は、信用性を欠き、棚卸除外は存しない旨主張する。

前述の如く、当裁判所は、右タップ出入帳の証明力は高く、その記載内容からしても実地棚卸を記載したものと解する。従って、検察官主張のとおり、六二〇万五九〇一円を本社工場のタップ棚卸除外額と認定する。

(二)  三重工場分

検察官は、押収してある三重工場タップ使用調査表綴一綴(昭和五二年押第一一六九号の15)、飯南工場タップ使用在庫表一綴(同押号の16)を基礎に昭和五〇年一月一一日当時のタップ在庫量を算出し、これに基づき、津野田親秀に同月三一日現在のタップ在庫量を推計させ(同人作成の「確認書」と題する書面参照)、これによって得られた三五七万四〇〇〇円を実地在庫量と主張する。これと50/1期決算関係書類中のタップ在庫量三五四万五九四〇円との差額二万八〇六〇円を棚卸除外額と主張する。

これに対し、弁護人は、前記タップ使用調査表、使用在庫表は、いずれも三重工場長津野田親秀が女子従業員にタップのサイズを覚えさせるために記入させていたものであり、実際の在庫数を示すものではなく、このことは、例えば、三重工場タップ使用調査表綴の二〇―四頁、一三〇―一頁、飯南工場タップ使用在庫表の一九―一頁、一九―三頁には、いずれも大量の在庫がある筈なのに摘要欄に、至急手配、急、至急と記載されていることからも明らかであること、又津野田の推計は一年二か月後になされたものであること等を理由に、右タップ使用調査表等は措信できないと主張する。

右タップ使用調査表等の性格については、右タップ使用調査表等の体裁、記載内宛からして三重工場から専務宛に作成されたもので、津野田自身のサインも存することを考えると、女子事務員の教育のため作成させたとの証人津野田親秀の供述は措信し難い。むしろ、三重工場におけるタップの在庫量を記載したものと解するのが相当である。

次に、大量在庫のあるタップについて、手配等と記入されていることについてであるが、弁護人指摘のとおりの各記載が存するが、いずれも青コピーされた用紙の上に赤ボールペンあるいは万年筆で加筆されたものであり、三重工場タップ使用調査表綴中の一三四―一頁、一三三―一頁、一二九―一頁、一一九―一頁、一二七―四頁、一二三―四頁、一二六―三頁には、いずれも在庫の僅少のタップについて至急、大至急と摘要欄に記載があるが、いずれも原紙に記載したものを青コピーした体裁となっており、加筆されたものではない。このように弁護人指摘の箇所は、他の部分と体裁を異にしており、加筆の時期が書類作成時かどうかに疑問が存し、在庫量自体の記載の不正確性の理由とはなしえないと解する。

従って、当裁判所は、三重工場タップ使用調査表綴、飯南工場タップ使用在庫表は、いずれも当時の在庫量を正確に記帳したものと解する。

最後に、津野田作成の確認書は、一年二か月後に作成されたものであるが、同人は三重工場長として前記使用調査表等の作成にも関与しており、タップに関しては詳しいことを考えると、同人のなした昭和五〇年一月一一日当時のタップ在庫量から同月三一日の在庫量の推計計算は十分信頼するに足るものと解する。

従って、前掲各証拠により、三重工場におけるタップ棚卸除外額は、二万八〇六〇円と認定する。

四 営業外収益について

弁護人は、園田耕商会からの取引紹介料一期一〇万五七一九円、二期一〇万七二一八円につき、右所得はいずれも被告人松本靜夫個人に帰属すべきものであり、被告会社のものではなく、仮に被告会社の所得としても、被告人松本靜夫は、個人名義の口座の開設を完全に失念しており、ほ脱の犯意がないと主張する。

第二〇回公判調書中の証人園田耕司の供述記載部分、収税官吏の被告人松本に対する昭和五一年四月一三日付け質問てん末書、同被告人の検察官に対する供述調書によれば、被告人松本から三菱商事の紹介で光洋機械へボルト、ナットの納入の引合があり、ボルトのほうは園田耕商会が納入したらどうかとの話が右園田にあり、同人もこれに応じたこと、はじめは被告人松本のほうで口銭をとるとの話で普通預金の口座を同人から園田が教えてもらったこと、これに従って園田が前記の各金額を右口座へ送金したことが認められ、右認定に反する被告人松本の供述は措信し難い。

右認定事実によれば、被告会社と三菱商事との取引の過程で生じた話であり、口銭の約束もされていたことも考慮すると、右所得は、被告会社に帰属すべきものと認められる。被告人松本自から自己名義の預金口座を園田に通知しており、その後の入金の詳細を知悉していなかったとしても、ほ脱の犯意の成否には影響せず、被告人松本に故意のあることは明らかである。弁護人の右主張は採用しない。

(法令の適用)

被告人松本靜夫の判示各所為は、いずれも行為時においては、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては、改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中各懲役刑を選択し、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人松本靜夫を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項により被告人松本靜夫に対しこの裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。

被告人松本靜夫の判示各所為は、いずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金五、五〇〇万円に処する。

訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により、全部、被告人両名の連帯負担とする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 金山薫)

別紙(一)の1

修正損益計算書

自 昭和48年6月1日

至 昭和49年1月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(一)の2

修正製品製造原価計算書

〈省略〉

別紙(二)の1

修正損益計算書

自 昭和49年2月1日

至 昭和50年1月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)の2

修正製品製造原価計算書

〈省略〉

別紙(三)

税額計算書

自 昭和49年2月1日

至 昭和50年1月31日

〈省略〉

〔編者注、別紙(四)一期期首タップ棚卸除外額表、別紙(五)二期期末製品棚卸除外額表(本社分)、別紙(六)三重工場月別製造高表、別紙(七)二期期末製品棚卸除外額表(三重工場分)については登載省略〕

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